東京高等裁判所 昭和27年(う)3189号 判決
被告人 仲島栄治 外一名
〔抄 録〕
一、弁護人の控訴趣意第一点及び被告人の控訴趣意について。
銃砲又は火薬類のいわゆる所持とは、人がこれらの物を、それが銃砲又は火薬類であることを知りながら、自己の実力的支配の下に保管することをいうのであつて、直接その物を把持する必要はないのである。そして一旦かような所持が成立すると、その所持は事実上その支配関係が終了するまで継続するのであつて、その間所持者に絶えず支配の意識が存することは必要でなく、前の所持者に返還する意思があつてもそれだけではまだ所持を抛棄したものとは認められない。今原判決が証拠として挙げている土田与四郎の供述調書、被告人の供述調書四通及び原審公判調書中被告人の供述記載を総合すると、被告人は昭和二十七年二月二、三日頃右土田から風呂敷包一個の保管を頼まれてこれを受けとり、翌日頃その内容をあらためて見てそれが拳銃一丁及び多数の実包であることを知つたにもかかわらず、同月十八日頃土田に返還するまでこれをそのまま預り保管し、その間土田の依頼に応じ二、三買主の物色をすらした事実を明認することができるのであるから、被告人は右のとおり情を知つてから以降返還するまで、拳銃及び実包をその支配下に保管していたものでありこれを所持というに充分である。原判示三もこれと全くその趣旨を同じくするものと解せられるのであつて、記録をよく調査しても右認定に所論のような事実の誤認があるとは認められない。又記録にあらわれたすべての主観的及び客観的事情を総合して見ても、被告人に当時所論のように何らかの適法行為に出ることを期待し得ない程の事情があつたものとは到底認められない。論旨は要するに独自の見解に基いて原審の認定を非難するに過ぎず、採用するを得ない。論旨は理由がない。
二、同第三点について。
被告人が現行犯人として逮捕され、その際拳銃等の差押を受けたこと、原審が、その現行犯人逮捕手続書と差押調書並びに被告人の司法警察員及び検察官に対する供述調書等を罪証に供していることは、いずれも所論のとおりである。よつて記録を調査してみると、被告人は昭和二十七年三月三日司法警察員の取調を受け、その際前記のようにかつてに預つていたことのある拳銃及び実包の提出を約して帰宅したところ、同月七日原判示「アオイ」部落内金子方においてこれを発見したので、直ぐに提出のためこれを携えて前記警察員の許に出頭したところ、拳銃等所持の現行犯人としてその場で逮捕され、右物品の差押を受けたものであることが認められるから、かような事情の下においては逮捕当時における被告人の右拳銃等の所持は違法性を欠き、これを犯罪ということはできず、従つてこれを現行犯人として逮捕し、差押を行つた司法警察員の措置は違法たるを免がれない。しかしながら、原審が罪証に供した前記各書面のうち、所論の逮捕手続書及び差押調書は、原審第二回公判廷において、その余の被告人の司法警察員及び検察官に対する供述調書は、原審第三回公判廷において、いづれも被告人及び弁護人がこれを証拠とすることに同意し、異議なく適法な証拠調を得たものであり、且つ右各供述調書の任意性についても何等争がなかつたものであることは、右各公判調書の記載によつて明かであるから、如上各書面は逮捕手続の違法であつたかどうかにかかわらず証拠能力を有するものであつて、前記各書面を罪証に供した原審の措置には何等判決に影響を及ぼすような違法を認めることはできない。従つて論旨一は結局理由がない。
註 本件破棄は量刑不当。